大江泰喜と猪原秀陽『 漫画と遺跡』
ポップとは何か。かつて作者が選択したアクションや色彩、それらのコンポジションを作品の主題に据えたモダンアートに対し、ウォーホルのようなポップアーティストは、誰もが知るスターのポートレイトを絵画化したりすることで、芸術に「象徴性」を取り戻そうとしました。こうした歴史の中で「ポップな表現」とは、作者自身とは独立した別個のパーソナリティを持つキャラクターを創造する行為だと、作者個人の意思を主題化する「アート」と相対して認識されてきた部分があります。 しかしそれはある時代を背景にして注目されたポップという営みの一つの重要な側面ではあっても、ポップを成立させる条件というものは、きっともっと多様なのではないか━そうした思いを起点にして、この度2人の作家に声をかけました。
昨年コミックス「We’reバッド・アニマルズ」を出版した猪原秀陽。彼の漫画内で描かれる人や動物はストーリーの中で確かな役回りを与えられながらも、定型化された表情や曖昧な輪郭から、キャラクターとしての人格を確固たる形で与えられるのを、ある一線で拒否しているかのような印象を受けます。また、ナレーションの吹き出し代わりに貼られる付箋は、あくまでこの漫画が実存する紙に描かれたモノであることを強調し、現実と独立した漫画内の世界への没入から、あたかも近代絵画的なメディアの表面の鑑賞に、読者を随所で引き戻します。見れば見るほど様々な観念の境界が曖昧となる彼の表現は、いわゆる「マイクロポップ」とも異なる、オルタナティブなポップと新鮮なキャラクター観を提示しています。
大江泰喜は、その圧倒的な創作意欲によりドローイングや立体作品を幅広く手掛ける19歳の若い作家です。彼の取り扱う題材は食器、建造物、既存のアニメやゲームのキャラクターなど、いずれも作者自身の意識から独立した観念を持つ人工物です。それらの題材を、自身の身体性を強く残す不均等なスタイルで模ることで、確かに「スカイツリー」でありながらも、熱を帯びた一つの生命のような佇まいを獲得します。インダストリアルでありながらその内側に作者自身の思念を宿したような姿は、元の題材を下敷きにしつつ、それとは異なる独特のキャラクター性を内包し、題材に対する既知の感覚とのズレも含めて、見る人を惹きつけます。
それぞれに歩みの異なる2人の作家ですが、両者ともに作品を主語とする「何が描かれているか」と、作者を主語とする「どう描いたか」という二つの主題の間に、それぞれ独自のスタイルによるポップネスを確立しています。
ポップアートとは真逆の試みとして、モダンアート的な方法論をポップの内側に引き込むことで、ポップのルールというものも変えられるのかもしれません。その試みの一歩として、両者の創造性を組み合わせ、その先に照らされる未来を探ってみたいと思います。 

(企画:綱田康平)
●期間
2021年5月7日(金)〜5月30日(日) 
13:00-20:00 (最終日は17:00まで)
金・土・日のみオープン

※入口に消毒液を設置しております。ご来場の際はマスク着用の上お越し下さいますようお願い致します。
入場時に体温測定を受けて頂きます。37.5℃以上の場合は入場をお断りしております。ご了承下さい。
また、都内の状況により開催期間・日時に変更が生じる場合がございます。


●作家​​​​​​​
・猪原 秀陽 / Hideharu Inohara
猪原秀陽/Inohara Hideharu
漫画家。「We’re バッド・アニマルズ」、「二人は旅の途中」。
1985年 埼玉県生まれ
2009年 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻 卒業

・大江 泰喜 / Yasuki Ohe
大江泰喜/Yasuki Oe
2001 広島県広島市生まれ
2013 ボーダレスアートスペースHAPに通い始め表現の幅を広げる
2016 広島市障害者ピースアートコンテスト入選
2016 大江泰喜・会田誠 原爆が落ちる前・落ちた後」GARTER (東京)
2017 『美術手帖2017.2』に紹介される
2017 愛媛県新居浜市へ転居
2017 原子の現場鞘の津ミュージアム(広島)
2017 広島アートスポットvol.6旧日銀広島支店(広島)2019 ポコラート全国公募vol.9入選
興味のあるものを身近な素材で平面、立体作品にしています。最近はモニュメント、食器、キャラクター(ドラえもん、妖怪ウォッチ)を作ることが多い。左利き。
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