● 概要
gallery TOWEDでは、「生活と美術」についての企画展「ちょうはあかぐり」(2018年9月 はやしはなこ、河合浩)を実施しました。 本展はその第2弾として生活にまつわる「道具」に着目し、展示を企画しました。
道具をモチーフにした作家、道具そのものを作る作家と古道具を展示します。 それぞれの制作する環境や経験や異なりますが、作家の軸となる「動機」の部分で共通する 意識があります。 古道具は生活の象徴としてだけでなく「歴史や時間を感じさせるもの・時間が経過する事で価値や需要が変わるもの」ということを考えながらセレクトしました。 個性ある作家たちの作品と古道具によって、茶室や床の間、日本庭園の様にミニマムでありつつ見立てによる遊びができる展示空間を作ります。 それぞれの作品の持つテーマや魅力をご覧いただけるのはもちろん、作品同士が呼応し 作り出す風景をお楽しみ頂きたいです。 皆様のお越しを心よりお待ちしております。
● タイトルについて
野生の思考は社会人類学者、民族学者レヴィ・ストロースの著書「野生の思考」から拝借しました。
本文より
「野生の思考とは未開野蛮の思考ではない。
野生状態の思考は古今遠近を問わずすべての人間の精神のうちに花咲いている。
文字のない社会、機械を用いぬ社会のうちにとくに、その実例を豊かに見出すことができる。
しかしそれはいわゆる文明社会にも見出され、とりわけ日常思考の分野に重要な役割を果たす。
野生の思考には無秩序も混乱もないのである。
しばしば人を驚嘆させるほどの微細さ・精密さをもった観察に始まって、それが分析・区別・分類・
連結・対比……とつづく。自然のつくり出した動植鉱物の無数の形態と同じように、
人間のつくった神話・儀礼・親族組織などの文化現象は、野生の思考のはたらきとして特徴的なのである。 」
本の中で特に「野生の思考とは、ありあわせの素材を用いて入り用の物を作る場合(ブリコラージュ)に例えられ、器用人の思考様式とされる」という点に、本展や後述の「床の間の美意識」との共通点を感じたため、タイトルとしました。
● 道具について
今回の展示では古道具も展示しています。
道具は「生活」の象徴として、生活感のあるものを中心にセレクトしました。
また古道具の中には「元の用途」ではなく、所有者の価値観で「存在価値」が変わっていく、興味深いものがたくさんあります。特に「四式陶製手榴弾(第二次世界大戦末期 頃)」は本展のテーマを象徴しています。川越近くの河原に大量に捨てられたものの一つです。第二次世界大戦の負の遺産とも言えるものですが、今では骨董品として主にネットオークションなどで売買されています。
物自体ではなく所有した人が価値を「作っていく」
戦争という「傷」を「繰り返し使っていく」「生活していく」ことで治癒しているようでもあります。その象徴として手榴弾を一輪挿しにしました。
● ある言葉
「何でもつこうて暮らし続けるのが、うちらの戦いですけ」
「この世界の片隅に」こうの史代 より
本展はこの言葉から発想しました。
企画者の村松は制作活動においても、生活や生活にまつわるモチーフを描いています。
生活を大事にする、丁寧に時間を過ごすことが困難なノイズの多い時代だと感じています。納得できない「大きな意志」に一介の絵描きである私が、何を持って対抗するのか、いつでも悩んでいました。
そんな時にこの言葉に出会い、勇気をもらいました。
力に対して、力で対抗するのではなく「自分なりの方法で」「あり合わせの智を使って」何とか暮らし続けることが、自分にとっても戦いなのではないかと考えました。
本展でもこの言葉と、原作漫画が参照した「戦時中の暮らしの記録」(暮しの手帖社)も2階図書スペースで読んでみてください。
● 床の間について
茶室の床の間の美学は、まさしく野生の思考のように、日常を含むあらゆる角度から見た「美」をサンプリングし空間に再構成しています。
数年前、京都の茶室でお茶を頂いた時に高名な僧侶の書いた「○(まる)」と骨董品として価値のある一輪挿しに、道端のススキを合わせることで、秋を表現していました。
物自体の歴史的価値や市場価値、有名・無名ではなく「野生の思考的」だと感じたので、今回、床の間を作りました。
全体もその意識でレイアウトしたのである意味、空間自体が拡張した床の間とも言えます。
● 参加作家について
あらゆる角度から捉えた「生活」を感じられるよう、なるべく表現方法がバラバラになるように作家を決めました。
アウトプットは違えど、展示することで個々の作品が持つ「生活」というテーマが繋がっているようなイメージで展示しました。
・本山ゆかりさん
コンセプチュアルアートのシーンで活躍されていますが、本展では「生活」というキーワードを元に作品をセレクトしていただきました。
本展で展示している「画用紙シリーズ」は静物画やコップなどの身近なモチーフをデジタル上でドローイングし、それを見て透明なアクリル板の裏面から白と黒のアクリル絵の具で描いた作品です。
時間が経過することによって、元の用途ではない需要が生まれてく、古道具の様でもあります。
・谷本真理さん
立体造形作家、パフォーミングアートの分野でも活動されていましたが、造形作家として「作陶」を選択したような、抜けの良さがあります。本展では道具そのものを飾りますが、道具をモチーフにその枠組みを壊していくようなパワフルさやものとしての強さが必要だったのでオファーしました。
サンプリングしてまた違った表現が生まれていく面白さがあります。
・ゴロゥさん
道具そのものを作る作家さんです。
興味深いのはデザイナーとして活動する傍ら、竹細工の作家として制作している点。
生活自体も大切にしてます。
編む、という行為に生活を感じました。特に仕事をしていると毎日同じ日々を繰り返しているような気分になることがあります。
でも竹細工の様に、繰り返すことで何かが形になる事って救いになるなと思い、今回オファーしました。
竹細工は素材もシンプルで時間が経つと風合いが変わります。
使う事で道具を育てる、という点も今回の展示には必要な要素だと考えました。