「郊外」
郊外は古くから芸術家の創造の源泉でした。
明治時代、東京からほど近い関東近郊の自然に都市の画家たちは惹きつけられ、度々写生旅行に出向き、著名な作品を残しました。
時は流れ、戦後の高度経済成長の中で目まぐるしい変化を遂げる都心と対峙した一部の芸術家たちは、「変わらぬ古き日本の姿」を郊外に求めました。漫画家のつげ義春が描く郊外の温泉や漁村、集落、そこで暮らしを営む人々の姿は、都市が漂白されればされるほどに、特異な魅力を放ち続けます。
そして今日、郊外は何を有しているのか。
「自然」や「古き日本の姿」といった、都市と相対する点も未だに郊外の中に見つけることができる一方で、それ以上に、この半世紀はその「変容」こそ無視できないものであったと言えます。
幹線道路が敷かれ大型チェーン店が進出し、施工と取り壊しが容易な素材で建設されたそれらは、「恒久的なもの」が持つ風格を郊外から喪失させました。地方の国道沿いは、もはや都会以上に画一的で、インダストリアルな風景を出現させています。
しかし郊外の画一化は、様々な喪失と同時に現代日本を生きる多くの人々にとっての、新しい「共通体験の風景」を生み出しました。
そしてこうした風景を敢えて題材にすることによって、その内に強い共感性を宿した、これまでにないアプローチの作品も作られてきています。それは、今までの「都市から失われた価値への慕情」とは異なるインスピレーションを、郊外に見つけることができるようになったということかもしれません。
こうして郊外は都市の周縁にありながら、「温存」と「変容」の2側面から現在まで創作に携わるものに刺激を与え続けてきました。
この度の企画は、現代の3人の作家のアウトプットから、郊外を巡る表現の今日的な様相を辿ると共に、郊外という場所が有しているそうした文化史的、あるいは地理的な複雑さを可視化し、思いを馳せようとする試みでもあります。
(企画:綱田康平)