『 松本竣介トリビュート 』

松本竣介は1912年に生まれ、戦時と重なる形で画家としての歩みを深め戦後間も無く1948年に亡くなった洋画家です。終戦を区切りとする近代日本美術の終着点に位置する画家とも言えます。
私は今まで他でもない「日本の近代美術」に強い関心を持ってきました。その理由の一つに、戦前と戦後という大きな時代分けの向こう側にあって、今の自分達と常に埋めがたい一定の距離を感じるからというのがあります。
作品を見たことはあっても、今を生きる自分達の文化へのリファレンスになることはない、分断された過去の存在。しかしそうであるからこそ、その中にある魅力を紐解いた時、今日の文化に新しい海原が拓けるのではないかと考えてきました。
松本竣介は近代の終着点にいて、まさに紐解くべき特異な魅力を秘めた作家です。
静謐で叙情的な印象と同時にそれだけでは語り尽くせない複雑さを内包する作品群、彼自身の生き方。いずれも今なお普遍的な奥深さを持っており、現代の我々の創造の源泉になりうる要素に満ちています。
そう信じて、これまで私自身機会があるごとに松本竣介からの影響を表明し、それを作品にも反映させてきました。すると数奇な縁があるもので、近年、同じく松本竣介に関心と共感を寄せるという作家に徐々に出会うようになりました。
自分が思っている以上に、松本竣介は時代を超えて今なお絵を描く人々の心を捉えている。ただそれぞれが繋がる機会を逸していることが、その状況を見えづらいものにしている。
そうした思いから私は松本竣介に共鳴する同時代の作家たちとともに、その想いを表現する場を作るべく、このトリビュートを企画しました。
本展示が、作家たちの様々な角度からの眼差しを通じて松本竣介の魅力とは何かを広く世に示すことになると同時に、「終着点」のその先に萌芽している創造を可視化し、近代の画家たちを、今を生きる自分たちと同一線上の歴史の中に再配置する試みの、第一歩となることを期待しています。​​​​​​
(企画:綱田康平)
松本竣介 「立てる像」 1942年  神奈川県立近代美術館蔵
松本竣介 略歴
1912(明治45) 東京渋谷に佐藤俊介として生まれる。
1914(大正03) 父親の事業のため、家族とともに岩手県花巻に移る。
1925(大正14) 流行性脳髄膜炎に罹り、聴覚を失う。
1929(昭和04) 東京雑司が谷に移り、太平洋画会研究所に入所する。
1935(昭和10) 第5回NOVA美術協会展に3点を出品し、同人に推薦される。
         第22回二科展に《建物》を出品し、初入選を果たす。
1936(昭和11) 松本禎子と結婚し、松本姓となる。淀橋区下落合4丁目に住む。
         随筆雑誌『雑記帳』を創刊。
1940(昭和15) 第1回松本俊介個展を日動画廊で開催。
1941(昭和16) 雑誌『みづゑ』に「生きてゐる画家」を掲載。
1942(昭和17) 2月第2回松本俊介個展を日動画廊で開催。
1944(昭和19) この頃父のすすめで「俊介」から「竣介」に署名を変える。
1948(昭和23) 6月気管支喘息による心臓衰弱のため死去。

“松本竣介 略歴”.三重県立美術館. 2023-10-16.

●開催期間
2023年11月10日(金)〜11月25日(土) 
13:00-20:00 
(会期中、金・土・日・祝日のみオープン)


●トークイベント
TOWED公式Youtube初のライブ配信は『松本竣介を語ろう #02』をお送りします。
前回インスタライブに出演した綱田・船戸に加え、トリビュート展参加者の石山さやか氏、つちやじぇりこ氏、松岡日菜子氏にもご参加いただきます。
11/12(日)20:30より、よろしくお願いします!



●参加作家

(石山さやか、小川哲、奥誠之、片桐水面、つちやじぇりこ、綱田康平、船戸厚志、松岡日菜子)


石山 さやか / Sayaka Ishiyama
マンガ家、イラストレーター。1981年、埼玉県生まれ。
著書にマンガ『サザンウィンドウ・サザンドア』(祥伝社)。
絵本『しんゆうだけどだいきらい』(岩崎書店)。





小川 哲 / Satoshi Ogawa
 1972年、島根県生まれ。 セツ・モードセミナー卒業後、東京にてイラストレーター/作家として活動。幾何学形や模様の要素をもとに、にじみやゆがみなどのランダムな要素を取り入れた作画で個展の開催を中心に活動。近年では、陶器作品や、古物を引用したオブジェ制作にも取り組み、より立体的な展示空間を展開している。
WEB:https://satoshiogawa.amebaownd.com
Instagram:@ogsatoshi

奥 誠之 / Masayuki Oku
1992年東京都出身。 声と絵の具、発声と筆致がイコールになるような表現を求めて絵を描いている。 2022年に初めてのエッセイ+作品集『ドゥーリアの舟』(oar press)を刊行。2023年8月から、本書の増刷を記念した巡回展がスタート。全国の書店やギャラリーを回っている。また2022年から、人と芸術の居場所を考えるための展覧会・読書会シリーズ「Homemaking」を企画している。
https://www.okuart.com/




片桐 水面 / Minamo Katagiri
気の向くまま、体の欲するままに絵を描いています。
【個展】
2018
「水の底が笑う」(gallery yolcha/大阪)
2019
「手」(nowaki/京都)
 「燈」(もりのこと/東京)
2021
「絵札」(gallery yolcha/大阪)
「君と暮らせば」(もりのこと/東京)
2023
「言葉足らず」(nowaki/京都)
他、グループ展に参加したり、本の装画を描かせていただくこともありました。画集「燈」(もりのこと文庫)。


つちやじぇりこ / Jericho Tsuchiya
1993年生まれ。福島県在住。「枯家見」と称して地方風景を記録し制作している。



綱田 康平 / Kohei Tsunada
画家。北九州市生まれ。東京在住。
自身の創作のほか、gallery TOWEDを拠点に展示企画等にも携わる。
主な個展:
2020「西海の情景」(SUNNY BOY BOOKS / 東京)
2021「琵琶湖の道のり」(VOU / 京都)
2022「斜光の記録」(ニュースペース パ / 東京) 他



船戸 厚志 /  Atsushi Funato
美術作家。1988年生まれ、群馬県出身。
2013年より内田百合香とともに美術企画「春のカド」を主催。
2018年に東京都墨田区にてgallery TOWEDを設立、現在運営中。



松岡 日菜子 /  Hinako Matsuoka
略歴 
高知県生まれ
2019年 京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)美術工芸学科 油絵コー ス 卒業
2022年 京都市立芸術大学大学院 美術研究科 絵画専攻 修了 

個展
「せいかつのご褒美」(GALLERY TOMO CONTEMPORARY/京都/ 2021)
「穏やかなながめ」(Gallery 子の星/東京/2023) 
「場面について」(beak585gallery/大阪/2023) 

グループ展 
「長亭 GALLERY 展 2022」(長亭 GALLERY/東京/2022) 
「GURA open storage」(高島屋大阪店 6 階ギャラリーNEXT/大阪/2023)
「植木鉢のある風景展2 STILL LIFE II」(ギャラリーモーニング/京都/2023)
「古い夢、壁には輝く蝶」(スタジオニューホープ/京都/2023) 
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