古川諒子
『 大聖堂 』
レイモンド・カーヴァーの短編『大聖堂』の主人公は、自分の内に閉じこもり、他人に偏見を持っています。彼は妻の友人である盲目の男に言われるがまま、一本のペンを二人で握って紙に大聖堂を描きます。そうするうちに、彼は盲目の男としだいに重なり合う感覚になります。

この展示では、私の友人に依頼して「話すほどではないけれど、言葉にすれば伝えられること」を集めています。それらの言葉を、布片の色や形の組み合わせによってあらわす「キルト語」という人工言語を創りました。それを読むには、日本語・英語・フランス語・アラビア語など、複数の言語に対応した変換表が必要で、ひとつのキルトに対して複数の読みが生まれます。例えばクッションの形をしたキルトでは、英語とフランス語の対応表を使用することで、それぞれ違う意味へと変化します。

映像作品は、英語話者が「キルト語」を読み上げる様子の記録です。言語による語順や構文の違いによって意味が変容することを提示しました。縫い込まれた図像が他者の声によって再解釈されることで、新たな記号として立ち上がります。文字を使わず、図形や数字に置き換われば、意味を違えることはないかもしれません。

私は、あなたと話すときに翻訳機を使いたい。それは機械的なものではなく、できるだけ柔らかく、折り曲げて持ち運びができるものです。私の言葉は伝わりにくいだろうから、お互いに辞書を引いて意味をなぞりたい。青い四角は「私」で、黄色い四角が「鶏」だったなら。それをすべての人が読みとることができれば、あなたの言葉のままで、あなたの話す文法のままで、私も理解ができるかもしれません。




●期間
2025年10月18日(土)〜11月9日(日) 
13:00-19:00 
会期中、土・日・祝日のみオープン


●会場
gallery TOWED 1F


●作家​​​​​​​
・古川 諒子 / Ryoko Furukawa
古川諒子は、1994年兵庫県生まれ、2022年広島市立大学大学院芸術学研究科修了。言葉とイメージ、またテキストと絵画の関係、名前や語順といった言語の構造を主題に制作を行う。既存のマニュアルや教本などを素材とし、そこから抽出・再構成した言葉を起点に、絵画やインスタレーション、パッチワークキルト、映像、書籍を構築する。
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